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2020.1.15

生きていくうえで必要なのは、絶望を遠ざける「いつかきっと…」

「お客さんから断られても、それはあなた自身がいらないと言われているわけじゃない。あなたの提案した商品やノウハウが『今は』いらないと言われているだけなんや」

飛び込み営業の仕事をするなかで自殺を考えるほど追い詰められていた営業マンは、研修で出会った女性講師からその言葉をもらったことで、前向きに仕事に取り組もうと決意したという。

なんと救われる言葉だろう、と胸を熱くしながら僕は、学生時代の記憶を呼び起こしていた。

横浜に住んでいた大学生の頃、インターネットプロバイダの乗り換えを促す販売のアルバイトをしていた時期がある。人通りの多い主要な駅の構内で通行人に声をかけ、一時的に設置したブースに呼び込み、契約にこぎ着けること。それがその仕事で求められる成果だった。プロバイダという商品単体では売れにくいの判断からか、乗り換えればパソコンが安く手に入るという特典もあった覚えがある。

時給はたしか2,000円強だったと思う。おまけに契約が1件も取れなくても、ちゃんと給料がもらえるという、相当に待遇のよいバイトだった。しかし、口先三寸で売らなければならないところが性に合わず、数ヶ月で辞めた。スキルも知識も素人同然だったので、自分で契約を取ったこともないし、お客さんが興味を持っても、先輩に引き継ぐところまでしかやっていない。まぁなんというかその、完全な給料泥棒だった。

商品力がないものを売るのだから、安さを売りにするか、特典をつけることで短期的なメリットを訴求するくらいしか、消費者の購買意欲につながるインセンティブはなかったと思う。もしかしたら、一流の販売員や営業マンならいい方法を編みだすのかもしれないが。ともかく、プロバイダなんて、どこと契約しようが大した差はないだろう。そんな諦めを払拭できない以上、仕事に対するモチベーションは湧いてこなかった。

その経験もあって、「販売、営業=相手がそこまで必要としていないものを押し売りする」というネガティブなイメージが先行していたために、僕は販売や営業の仕事にあまりいい印象を持っていなかった。

この話に嘘はないのだが、別の見方をすれば「断られて当たり前」の仕事をこなすには、僕の心はヤワすぎたとも言える。声をかけても、相手が無反応で通り過ぎてゆく。それだけで自分自身が拒絶されたと錯覚し、自分の存在価値を疑ってしまうほど、僕には自信(自己肯定感)が欠落していた。人は自信がないと、他人のネガティブな反応を、自己否定に直結させてしまうのだ。その磁力は他人のポジティブな反応でしか弱めることができない。

だからこそ、先に紹介した女性社長の言葉が響いたのだ。「今は」必要とされていないだけ。「今は」結果が出ていないだけ。「今は」時機が来ていないだけ……。こうした条件つきの言葉はすべて、「いつかきっと」という希望を与えてくれる。トンネルは出口が見えている方がいいに決まっているのだ。

つられて思い出すのが、西原理恵子の本に書かれていた医者の言葉である。

カモちゃん(西原理恵子の夫、鴨志田穣)は、もうダメだと思う。あの病気は病院に行かなければ治せないけど、病院に行っても、のた打ち回った末に死んでしまう患者さんが多い。でも同じ死ぬのでも、希望のうちに死なせてあげるのが、人の務めです。『治ったら帰って来ていいよ』って、ウソでいいから言ってあげなさい。そうすれば彼は、幸せのうちに闘病して死ねますよ。絶望を与えちゃいけません。すべての患者には、希望しか与えちゃいけないんです」(『あなたがいたから』より引用)

夢や目標を持つことも、前向きでいることも、突き詰めれば、絶望しないためにあると僕は思う。