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2020.5.23

根性論が苦手な人に。「スポ根」には収まりきらない青春漫画『ブルーピリオド』

東京藝大卒の作者・山口つばさが描いた『ブルーピリオド』は、自信とは何かを考えさせられる漫画である。

「成績優秀でスクール・カースト上位でありながら、どこか空虚な日々を送る高校生 矢口八虎が絵を描くことの楽しさに目覚め、美術大学(東京藝大)への入学を目指すスポコン受験物語」と紹介されている本作。

カテゴライズするなら確かに、目標に向かって努力する過程を描く「スポ根漫画」だと思う。だが、努力は努力でも、自分の限界を超えろ!といった、根性論がにじんだ努力としては描かれていない。そもそも情熱や衝動を原動力に、予備校などで学んだ理論やノウハウを活用しながら、絵を描き続けることを「努力」と呼ぶのだろうか。

成績優秀で、多くの人から好かれているだけでは満たされない。そんな主人公の描かれ方対し、「主人公が悩みを抱えるシーンがどれも表層的にしか見えない」という批判的な意見がAmazonのトップレビューになっているが、“万能な”人間が“陽キャ”として“人気者”の地位を獲得しているからといって、必ずしも“リア充”な人生を歩んでいるわけじゃない。

その証拠に、「好きなものを好きっていうのって怖いんだな…」という独白が主人公の本質を表している。周囲の顔色をうかがい、まわりが欲しがる反応を差し出すことで居場所を確保してきた、つまり周囲に迎合して生きてきた彼の前には、絵を通して自分を深め、発見し、開放するという試練が立ちふさがっているのだ。

社会のレールから外れた「美術」という砂漠に身を投じ、自分とは何か、自分は何がしたいのかを問い続ける人生は、自由であるかわりに孤独で、苦悩や葛藤がつきまとう。

ただ、主人公はその道を選んでしまった。

俺の中から湧き出してきたものをたよりに、俺の手で摑みとったものしか俺を充足させることはできない−−。ずっと胸に忍ばせていた言葉にならない叫びは、険しい道を選ぶことを主人公に運命づけたのだろうか。

自分の可能性を信じながら闘い続ける人間の普遍的な姿が描かれている本作は、「誰かに自分の人生を託したくない」すべての人におすすめである。

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