ライフストーリー

公開日 2016.9.21

Story

「ミニッシュは僕が働きたい会社そのものだったんです」

シューズミニッシュ 営業 上嶋 敦さん

包含と調和を目指して

さいしょは父にお膳立てされて始めたにすぎなかった。

水泳や柔道、バスケ、サッカー……。幼い頃、いろんなスポーツを経験した上嶋だが、それらはすべて「ラグビーをやる上で生かせる身体づくり」を目的とした父の教育方針だった。小学生の頃、他のスポーツに浮気したい時期もあったが、父はそれを許さなかった。敷かれた導線の上を忠実になぞるような人生に不満を抱いたこともある。それでもラグビーは、いつしかなくてはならないものになっていた。
「後々になって、父の方針が生かされていることがわかってからは、感謝の気持ちが生まれました。とはいえ、ラグビーに関しては不完全燃焼。すべて中途半端で、自分が持っている体力や可能性を最大限に生かせなかったことが大きな心残りだったんです」

ラグビーエリートが集う奈良の天理高校やAリーグに属する強い私立大学などの強豪校、要は一流を目指せる環境にどうして突っ込んでいかなかったんだろう。一般入試で合格していた天理高校に至っては、チャンスを自ら手放してしまったのだ。そういうところに行っていたら、また違う人生を歩めたかもしれないのに。社会人になっても社会人リーグに属するチームでラグビーを続けるという選択肢もあったはずなのに……。

大学時代、ラグビーのエリートコースを歩んできた連中からも「上嶋なら社会人リーグでも通用するはずや」と太鼓判を捺された身である。にもかかわらずその道を選ばなかったのは、ひとえに自身の臆病さゆえ。今は一ファンとして楽しめているという上嶋だが、社会人になりたての頃などは、手に入れられたかもしれない幻影を日常のはざまで追っていた。時の経過とともにその未練をじょじょに消化させていったのは、「この仕事で一流になりたい」と思えた営業の仕事だった。
「いまもミニッシュの営業職として、自分なりのやり方で営業を極めていきたいとは思っています。O社にいた頃から、歴史や背景などのストーリーを語ることを通じてものを売るとスタンスに変わりはありません。違うのは、ここではデザインの意図なりそこに注がれた想いなり、高本をはじめとした作り手の声が生で聞けるということ。営業を担当している身として、その強みは生かしていかなければならないと思っています。

とはいえ営業をずっと最前線でできるはずもないし、若い子もだんだん育っていくだろうから、将来的にはみんなが働きやすい環境づくりに力を注いでいければなと。今後、人が増えていくにしたがって、意思の統一や浸透は難しくなっていくはずですから」

2014年7月に上嶋がミニッシュに入社してから2年が経つ。
「ホラクラシー型組織を目指しているうちの会社の方向性には、すごく共感できています。というより、そうでないとあかんと心の底から思っています。とはいっても、なんでもかんでもナァナァになったらあかんし、秩序は必要ですけどね。

仕事は自分一人でやるもんじゃないと思うようになってきたところなのかもしれません。おれがやらなきゃいけないという感覚が薄れてきたというのかな。と同時に、みんなが同じ方向を向きつつ、理念を遂行していけるような組織の調整役としてプロフェッショナルになりたいと思うようになってきた今がある。その立場やその人間でなければ、聞き取ったり、吸い上げたりできない意見って必ずあると思いますから」

ストレングスファインダーテストが示す上嶋のいちばんの強みは「包含」である。
「偏りはあるかもしれないけれど、まんべんなくするために、いちばん遠い部署にいる人たちに気を寄せていたいと日頃から思っています。僕はどうやら仲間はずれを作りたくないという気持ちが強いようで、目下の子が困っていたり、元気がなかったりすると、気になってしまうんです。だからこそ、派閥を作ったり、自分の気に入らない人間は蚊帳の外に追いやったりするような行為を嫌い、そういうことをする人には噛み付いてしまうのかもしれません。

その性格もあってか、「会社を辞めたい」と人から相談されると引き止めたくなるんです。たとえ、「もう目的が違ってんねんから引き止めてもしゃーない」という意見が大半を占める状況でも、なんとかして決意を翻させたくなる。きっとおなじ方向に向かうことができていた一時の面影が忘れられないんでしょう。未練たらしいのか(笑)、その部分ではすごく情を移してしまうところがあるんです。

対話すら叶わなかった過去が大きく影響しているんでしょうね、少なくとも自分から人を追いやったり見捨てたりするようなことは絶対にしたくない。根本的にチームプレーが好きで、同じ目的に向かってひたむきにがんばるというプロセスそのものに喜びを感じるところはありますしね。いまは会社の人たちと話すことが楽しいんです」

 

叶えられた夢

そんな上嶋にも「ヒエラルキーの頂点に君臨する大ボス」だった時代がある。高校時代、ラグビー部で主将を務めていたときのことだ。高本ら同級生も「めっちゃ怖かった。口よりも前に足が出る感じやった」と口をそろえるが、当の本人にはその自覚がない。
「何かに取り憑かれていたのかもしれません。(笑)必死になりすぎてたのか、部員の話を聞いてあげるとか、隅々の意見を汲み取るというような発想はまったくなかった。誰よりも走るなど、しんどいことをしている自負もあったし、俺がやってんねんからお前らもやれよ、というスタンスで接していたような気がします。「キャプテン=チームでいちばん強い存在」だと思い込んでいた当時のことを振り返るにつけ、つくづく自分は間違ったことをやってきたんやなと思わされるんです」

それから10数年。「おまえ、もう辞めてまえよ」「うちの会社にとって、おまえはもう負の要素でしかないわ」——— あまりに出来の悪い部下に対して、連日のように罵っていた時代が上嶋にもある。福島に転勤して3年目、3o歳のときのことだ。
「とことん物分かりが悪くて、かけ算、わり算すらできない奴でした。ほんまによく耐えたな、訴えられてもおかしくなかったな、と思うくらい、ボロカス言っていたと思います。(僕より早くO社を辞めた)彼からすれば、仕事を辞めると同時に、真っ先に関係を切りたくなるような接し方をしていたはずなんです。でも幸いなことに、今でも関係性は続いていて、「お世話になりました」と感謝すらしてくれている。僕を恨むどころか、歩み寄ろうとしてくれている彼のほうが僕より大人ですよね」

受けてしかるべき報いだったのかもしれない。仙台店舗にて、上嶋が例の店長から爪弾きにされたのは、それから約5年後のことである。心に傷を負いながら、上嶋は自身の犯した過ちを自覚していた。

あるいは、つまづかなければならない石ころだったのかもしれない。上司の日吉いわく「人とコミュニケーションをとるのがうまくて、誰とでもわけ隔てなく付き合える。下の子からも「キャップ」と呼ばれて慕われている」上嶋にかつての面影はない。

日吉は「誰に対しても悪口を言わない、男惚れするようなところもある」ともつけ加える。「4年前、彼と一緒に働きたいというメッセージを込めてブログを書いた。僕の同級生ということで入りづらかったと思うけど、スムーズに溶け込んでいった」と話すのは高本だ。

上嶋は言う。「高校時代の同級生が同じ会社にいることが僕のバイタリティーになっています。まわりからは「仲良しごっこでやってるんちゃうん」と批判的に見られたりするけど、一緒に熱くなれる仲間が近くにいることは励みになりますよね」

苦しいときこそ、みんなで力を合わせながら笑顔で乗り越えていく―——。そんな環境を手に入れることは、もはや諦めかけていた。

波に乗っているときは、何の問題もなかった。O社時代、福島にいた頃も、少人数の組織だったからこそ、自身の理想に近いありようを実現できていた。だが大阪に戻り、150名近いメンバーが属する組織になると、ひとたび売上が低迷すれば、必死になるのは上層部だけのような状況に。他の社員は上から降りてきた命令に従うよりほかはなく、本部からプレッシャーをかけられた上司によって持ちこまれたギスギスした空気が職場を満たしていく−−−—。上嶋がO社で経験したのは、苦しみは苦しみとして飲み下さなければならないような職場環境だった。
「正直、僕はまだ右肩上がりに売上を伸ばしているいい時のミニッシュしか知りません。まだミニッシュは危機というものに直面していないのかもしれません。ただ2年間働いてきて思うのは、いまの仲間となら危機的状況でも乗り越えていけるんじゃないかということ。自身、そういうチームを作る役割として力を発揮しなければならないという使命感も持っていますしね。

とはいえ、人が増えれば増えるほど、同意は得がたくなり、統制を取りにくくなるのは確かでしょう。もしかしたら僕の描いている理想は、そもそも実現不可能な、叶わぬ夢なのかもしれません。でもミニッシュなら、いずれ1000人規模の会社になったときも、変わらずにいられるんじゃないか。苦しみと笑顔が背中合わせにある瞬間が訪れるんじゃないか―——。少なくとも、そんな期待であり希望を抱けるんです。

とにかく僕は本当に運がいい。40歳近くになって、働きたかった会社に入れたわけですから」

あの日見た幻は、幻ではなかった。「楽しそう」という直感に導かれるようにして結ばれたミニッシュとの縁は、父から幾度となく「世渡り下手」と言われてきた男にもたらされた報いだったのかもしれない。ひたむきでまっとうすぎるがゆえに不遇を味わってきた遅咲きの男はいま、プロローグが正夢となった夢の続きを追っている。出来の悪かった後輩から毎年届く福島の桃がよみがえらせる、若かりし頃の過ちを胸にたずさえて−−。

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