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出逢いは一目惚れ
4年前の春、その“恋”は一目惚れからはじまった。
小峰が“彼女”と出逢ったのは、結婚を予定している妻とデートに出かけた滋賀の三井アウトレットパークだった。施設の入り口近くにあった店に並んだいろいろな出処を持つ“彼女”候補のなかで、ことさら目を引く存在が心をときめかせたのだ。しかし、まだ出逢って数分しか経っていない時点で“彼女”と生活を共にすることを即決するのはためらわれた。いろんな店を見て回ってから決めよう、そう思いつつ施設内を巡るも、“彼女”のことが忘れられなかった小峰はさほど間を置かずして、ふたたび“彼女”のもとを訪れた。
いざ手に入れてからも、“彼女”への恋は冷めないどころか、想いは募るばかりだった。見た目が魅力的なうえに、カラダの相性も抜群。夏が近づいていたことも手伝って、外出を共にする機会が増えた“彼女”の存在は、いつしかこれまで出会ってきた元カノたちをごぼう抜きに。その“彼女”こそ、のちに小峰とミニッシュとの縁を結ぶ自社ブランド製品・リゲッタカヌーサンダルである。
「機能的で見た目もかっこよく、歴史もあってブランド力も感じる。そんな理由で一番のお気に入りだったビルケンシュトックのサンダルを超えるものが現れたことにまず驚いたんです。身につけるものにはそれなりに気を配っていた自分が30代になり、決まったメーカーやブランドの商品しか買わなくなっていたなかで、そういうものに出会うとは思ってもみなかったんですよね」
購入後すぐ、リゲッタカヌーの情報をインターネットで収集した小峰だが、それがミニッシュの製品であるという事実や、ミニッシュが生野区を拠点とする会社であるという事実に行き着いたのはそれから数ヶ月後、アルバイト先を探すなかでミニッシュの求人情報を目にしたときだった。
当時、彼女との結婚を決めていた小峰は、いずれ正社員として働く未来を描きつつ、ハローワークや求人誌などの求人情報に目を通していた。その折に訪れた「縁」としか呼びようのない偶然の出逢い。自身が愛用している商品を作っている会社で働けるとなれば、迷う理由など何一つなかった。すぐさま行動を起こした小峰がミニッシュの一員となったのは、2012年7月のことである。
「ただただラッキーという感じでした。好きが高じて、ですらないわけですから」
“環境づくり”に心を砕いて
入社以来4年間、小峰の持ち場となっているのは当初配属されたデリバリー部門だ。社内部署のうちもっとも消費者に近い場所での日々の仕事は、700~800足の靴を梱包し、1ケースあたり20箱ずつ箱詰めすること。外部や他部署と接点を持つ機会は他部署に比べて少なく、運送業者のドライバーとやり取りをする程度に限られている。それゆえか離職者が途切れず、人の出入りが多い時期があった。
「ルーティンワーク的な仕事内容だから、つまらないというか体力的にも精神的にもしんどいと感じる人もいる。営業とか企画みたいな花形部署に行きたい、本当はショップで働きたいという思いを持っている子からすれば、しばらく働いているうちに希望とともにモチベーションが失われていってしまうのかなと。
かたや僕にはそういう気持ちが全然ないんです。入社したての頃も今も、自分が好きなものに関われてるだけで十分。これからもずっと、デリバリーでもいいと思っているくらいです。デザインを形にしたり、靴を作ったりという「モノづくり」には携わっていないけれど、ミニッシュというメーカーの「生産」という大きな括りに入っている実感は確実にありますから。実際、僕らデリバリーがお客さんに渡さない限り、うちの商品はどこにも広がらないわけですし(笑)」
事実、入社後1、2ヶ月が経った頃に「営業をやってみないか」と高本から持ちかけられたこともあるが、小峰は断っている。ミニッシュから卸・販売部門を独立させた(株)リゲッタカヌーを設立するなど、会社の成長曲線がいっそう急カーブを描きはじめた時代のこと。働く中で(当時は)会社の弱点だと感じていた品質管理部門への異動を望んでいたものの、自身の持ち場もおぼつかない状況を自覚して留まった、という経緯がある。
「アルバイトさんやパートさんは別として、正社員を目指しているという意志や覚悟を持つのであれば、「今日は1,000足梱包しよう」という目標を立てるなりして、仕事のやりがいは自分で作り出さなきゃいけないんじゃないかなと。会社勤めをおもしろくするのは自分以外にない。自分が居心地よくいるためには、自分と向き合わなきゃいけないと思うんです」
とはいえ、ここでスタッフを束ねる役割を担うようになった2014年9月以来、小峰は手をこまねいていたわけではない。スタッフへのフォローや気遣いを怠らないよう、働きやすい環境づくりに努めてきた。デリバリースタッフ最年少の19歳の女性が帰るとき、ある社員が「今日、大丈夫やった?」と気遣うなど、スタッフどうしで言葉を掛けあう場面が日常となったのはいつからだろうか。それが功を奏したのか、ここ1年間でデリバリーから去ったスタッフはゼロという新たな歴史が生まれている。
「きっかけ作りくらいはさせてもらえたのかなと思っていますけど、あとはみんなが自発的に長く働ける環境を維持しようとしてくれたおかげです。とはいえ、まだまだ話の質も浅いし、もっともっとコミュニケーションを取らなきゃいけない。彼らがお腹の中に溜めていることを遠慮せず発してくれるような環境づくりが次に取り組む課題ですね」
そう語る小峰の胸には苦い思い出が染みついている。