ライフストーリー

公開日 2014.7.11

Story

「念ずれば、花ひらくんです」

近畿大学泉州高等学校 野球部監督 清水 雅仁さん

「金利なんぼ?」
「金利って預金のですか?言うたら預けてくれるんでしょうね?」
「そんなんわかれへんがな」
「それやったらいちいち聞きなはんなや。言うたらしょうもない金利やのぅって怒るんでしょ?。そない言われたかて、僕どうしようもないですからね~。」
「おまえ変わったやっちゃのう」
「金利はどうでもええ、お前に金預けたいって思うなら預けてください。だからお願いしますよ、1000万ほど。」
そして、はんこが入っている机の引き出しを指差して清水は言う。
「ここにはんこついときますわ」
「何でそこにあんの知ってんねん」

以前営業に来た際に、はんこの在処は調査済だったのだ。結果、当案件は成立に至った。

ちなみに、この話には後日談がある。翌日、清水はアイスクリームを手土産にその会社を再訪。
「お前、アイスクリームだけか?」
「あと何がいりますの?1000万くらいで。1億やったらもっとええもん持ってきてますけどね。」
「お前、ホンマしばくぞ」

ちなみにその社長とは今でも付き合いがあり、大会前後には電話もかかってくるという。銀行を退職する際には、「おまえみたいな銀行員もうおらんやろ。また遊びに来いよ」という言葉をもらったとか。
「たとえお客さんであっても、僕はそういう付き合いをしていましたね。やっぱり、ええように見せたところで、遅かれ早かれボロは出てしまいますから」

一方で、本気で頼みに行った際にはがらっと態度を変えた。何も余計なことはしゃべらず、口にしたのはただひと言、「頼んます」普段と違う清水の様子に気づいた相手も「お前がこの時間に来るっていうたら、よっぽどやな」という反応を見せた。
「本気度は伝わりますから。あんまりええかげんなことはした記憶がないですね。時間を守らなかったこと、約束を破ったことは一度もありません。

だから、根本的には昔から何にも変わっていないと思います。
僕は近大泉州高校で働くようになって以来、給料明細を一年間見たことがありません。銀行員時代も見たのは一回あるかないか。お金に囚われて生きたくない。そんな思いがあったので、お金を意識的に遠ざけていたんです」

清水は2013年3月まで、大産大附高にて常勤講師として7年働いている。常勤講師と言えば契約社員だ。一方、専任講師はいわば正社員。専任講師となるメリットは収入の増加、そして生活の安定にある。ゆえに多くの教員が専任講師を目指す中、同僚から専任講師になるための試験を受けないのかと尋ねられた清水はこう答えた。「もし学校がおれを必要とするのであれば、向こうから受けてくれと言ってくると思う。でも、それを言われないということはおれに足らないものがあって、必要じゃないということなのかもしれん。だから、おれは自分からは受けるとは言わないんや」

「かっこよく言えば、安住の地を求めたくなかったんです。(僕が)いらなかったらいらんでいい、実家に帰って百姓するからというくらいの気持ちではいましたから」

 

仕事のよろこび

教員生活2年目、45歳で「思うようにやりなさい」と生涯初めての担任を受け持つこととなった清水だったが、当初、自分が学生だった頃からの20年以上のブランクも手伝って途方に暮れたという。
「今でも僕より年下の先生を見ていると、勉強もしっかり教えられてすごいな~と思ったりします。そうなりたいという憧れも芽生えます。けれども同時に思うんですよ、果たして自分にそれができるのかと。

まぁでも、人間、自慢できるものを一つ持ってたらええのかなと。世の中に出たら、国語の点数が何点だったかなんて誰も訊きませんしね。そういう意味では、自分が二人の子供の父親となったこと、銀行で営業を経験したという過去が僕を支えてくれたのかもしれません。結局のところ、自分の指導方法が合っているかどうかなんてわからないし、最終的には子供たちに委ねるしかないのでしょうけど」

そう語る清水は普段の学校生活においても、子供たちに同じ顔を見せる。
「放課後に教室の掃除をすることが義務として定められているんですけど、ただ箒を動かして掃除しているフリをしているのが大嫌いなんですよ。だから、「ほんまに綺麗に掃除せえ」というのが僕の口癖です。

授業態度に関しては例えばこう言います、授業中、机に臥せって寝ていたらごっつ怒るぞと。でも、鉛筆持って舟こぎしているならいい。それが礼儀やと」

他にも「職員室に入ってくる時はリュックくらい降ろせ。マフラーくらい外せ。」「通学の際にも、通学指導で立っている先生にもちゃんと挨拶せぇ。」など、とりわけ人としてのマナーやエチケットに関して清水は口を酸っぱくする。
「そんな僕はよく、「おまえ、古いなぁ」と言われます。確かに、古いのかもしれません。でも、考え方が新しいか古いかなんて大人が勝手に決めているだけでしょう。そういう価値基準で判断されるのであれば、僕はもうやっていけませんわ。

昨今は触らぬ神にたたりなしという風潮がありますよね。でも、生徒たちの行動が人の道から外れている場合はやっぱり引っぱりこまないといけないと思うんです」

清水は教師生活8年の中で一度だけ、1年から3年まで同じクラスを持ち上がったことがある。その卒業式の際、清水と生徒たちとの間で交わされたやり取りをして、ある同僚は感に堪えない様子でこう語ったという。「久しぶりにこんな卒業式見せてもろたわ」と――。

卒業式当日。式は順調に進行し、局面は卒業式退場へと移っていく。本来、卒業生は担任の前を経由して花道を退場していく段取りとなっていた。だが、清水の受け持つクラスにて学級委員長も務めていた野球部主将は卒業生代表として答辞を読み上げた後、「先生、お世話になりました」と涙を流しながら右手を差し出したのである。

それに対し「元気でな」と手を握り返した清水だったが、溢れてくる涙と嗚咽をこらえるのに精一杯でうなずくことしかできなかった。それがきっかけとなったのか、以後クラス全員が清水と握手を交わすという思わぬ展開に。中には抱きついて離れない生徒も多く、他クラスの生徒ももらい泣きするほどだった。
「クラス30数名すべて運動部員だったからでしょうか。まったくもって、卒業式の進行を妨げましたよね。でも、ベテランの先生方からは「よかったなぁ」と言ってもらえて、教師としての喜びを初めて感じた一場面でした。

古風やけどこんなんもええんちゃうか、清水みたいなんも必要やぞと思ってくれたらいいんです。いいか悪いか、古いか新しいのかはわかりません。いや、たぶん、古いんでしょうね…。

でも、卒業する時にある親御さんは言うてくれました、「まさかうちの子が大学に行きたいなんて言い出すとは思いもしませんでした。先生のおかげです」と。別の親御さんはこう言いました「卒業できるなんて思いませんでした」と」

そもそも清水にとって、教師になるのは中学校3年の時からの夢だった。ロールモデルとなったのは当時25歳だった担任の女教師である。その教師に「僕、学校の先生になります」と告げて卒業した清水は、銀行員時代、野球部で現役生活を送っていたさなかにもその夢を忘れたことはない。結果的に清水を銀行にとどまらせたのは、(勉強をすることで本業をおろそかにしてしまうといった形で)銀行に背を向けるようなことはすべきでないという思いだったのだ。
「優しくもあり、厳しくもあり。金八先生の女版のような情熱的な先生でしたね。彼女から受けた影響は大きく、今の僕のスタンスは当時の彼女のそれとほぼ同じになっていると思います」

2年前、清水はその女教師の還暦祝いの会に出席。そこで「宣言した通り、先生と同じ国語の先生になりましたよ」と告げると、教師はこう言ったという。「あなたならやると思ったよ」
「僕の最大の原動力は、やっぱり喜んでもらいたいという思いなんでしょうね。ひょっとしたら自身の中にええ子になりたいというところもあるのかもしれません。だって褒められたら嬉しいじゃないですか。だから、子供らにも、もう一段階高いレベルを目指せという意味で、人のために野球せぇよとは言ったりするんです」

先日、部員の保護者から「冬に実家に帰ってきたら、体が一回りも二回りも大きくなっていた上、「ありがとう」という言葉を口にするようになったことにはほんとに驚きました」との報告があった。また、昨冬、ある部員が久しぶりに古巣となる少年野球チームに顔を出した際、その選手の変わりように監督は驚いたという。
「野球の技術や体つきはさることながら、言うことも全く変わったと言われました。それはきっと心が肥えてきているしるし。自分に自信が出てきたんでしょう。それでいい、それだけでいいんです。甲子園に出られるか出られないか、試合に勝てるか勝てないかは別の問題です。夢に向かう努力を怠らずに続けていれば、野球の神様が勝利をプレゼントしてくれるんじゃないかな。念ずれば、花ひらくんです。つまるところ、僕が野球部の顧問として目指しているのは、大学に行っても野球したいという子を増やすことなんです。

まぁでも、この半年間、子供らは乾いたスポンジみたいにいっぱい吸収してくれて僕は楽しかったですよ。それが楽しいっちゃ楽しいし、しんどいっちゃしんどい。出来が悪いからなのか、何とかなるわという楽観が持てないからなのか、四六時中何やかんやと考えてしまう自分自身に疲れる時もあります。今後どこまで気を張っていられるか不安や怖れを感じる時もあります。

だから、50年間監督業をやりはった豊田先生(前任監督)にはほんまに頭が下がります。でもひょっとしたら、右往左往している時、あたふたしている時が一番楽しいのかもしれませんね」

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