ライフストーリー

公開日 2016.8.20

Story

「この会社は、僕を変えてくれた場所なんです」

シューズミニッシュ 生産管理部 デリバリー担当 金城 伸明さん

開かれてきた心の扉

「基本的に人と接することが苦手な僕には、まわりに対して心を閉ざしているようなところもありました。それが前職でハブられたり、嫌な目に遭ったりした一因になっていたのかもしれないとも思うんです」

金城が「基本的に冷めていて、みんなが騒いでいるところに入り込めない」自分に変わったのは、20年近く前のある事件がきっかけだった。

中学時代のある日、教室で友人たちと話しているとき「吉野家」の話題が出た。そのとき吉野家を知らなかった金城は友人たちに「吉野家って何?」と無邪気に尋ねた。
「おまえアホちゃう」

彼らの反応は残酷だった。ほかのクラスメイトもいる中で、束になって金城の無知をあざ笑ったのである。

バカにした友人たちにとっては、ほんの些細な日常だったかもしれない。やりとりを傍で聞いていたクラスメイトにとっても、その日のうちに忘れてしまうような出来事だったのかもしれない。

だがその日をさかいに、金城は一変する。しゃべりたいことがしゃべれなくなり、訊きたいことも訊けなくなったのである。またあのときのように馬鹿にされるかもしれない……。その思いが胸に立ち現われたが最後、何も言えなくなってしまうのだった。
「その一件をきっかけに人と接することが怖くなっていったんでしょうね。それまでの僕はむしろ、人と接することが好きな方でしたから。保育園時代は必ず赤レンジャーのポジションにいたし、小学校時代もけっこう目立つポジションにいた。疑問に思ったことも素直に人に訊いたりできていたし、とくべつ苦手意識はなかったんです」

苦手意識がより強まったのは、高校3年のときだった。

とある大手企業の採用面接に出席した金城は、面接会場の扉を開けたとたん、衝撃を受けることとなる。若手から古株まで、自身が座る椅子から向かって前に5人、左手に10人、右手に10人。総勢25人の社員が金城ら3名の応募者を待ち受けていたのである。

彼らから一斉に視線を浴びるという状況に身を置くだけで頭は真っ白になった。極度の緊張ゆえ、その後は「趣味は何?」というような簡単な質問でさえまともに答えられた覚えがない。期待するまでもなく、後日、その企業からは不採用通知が送られてきた。
「ミニッシュはワイワイしている会社だけど、今ひとつ飛び込めないルーツはそのへんにあるんだろうなと。ただここでは、人前に出る機会を提供してくれるので、徐々にだけど慣れてきている感覚はあるんです。克服しようとみずからアクションを起こせるようにもなってきましたし。

僕の発言によって、場の空気を悪くさせてしまうことがめっちゃ嫌なんですよ。人を傷つけてしまったらどうしよう、馬鹿にされるのは嫌だ……という思いを振り払うことができない。「失敗を恐れず挑戦し続けよう」という会社の行動指針があるけど、わかっているけど踏み出せない感じはあります。トラウマになっているのかはわからないけれど、心を開いたり、思っていることをすぐに言ったりすることができなくって」

思えば、事あるごとに「人の痛みを分かれ」と言う父だった。

ゲームやベッドの取り合い、消灯時間について……。幼い頃、同じ部屋で過ごしていた年子の弟と、些細なきっかけから殴り合いの喧嘩にまで発展することは日常茶飯事だった。毎度のように金城らをシバいてお灸をすえる父からは、そのたびに「同じ血が通ってんねんからな。おまえらが仲良くせぇへんかったら誰と仲良くすんねん」と叱られた。
「父親はすごく人とのつながりを大事にしはる人でした。父親に言われたことが自分の中に染みついていて、言い合いや喧嘩に発展しないようにしようという意識もはたらいているのかもしれません。実際、言い合いをするとすごく疲れることもわかっているから、言いたいことを言えずに終わることはけっこうあるんです。

でも苦手なことを免罪符にして、出来ない自分を許してもらおうとするような人間ではいたくない。だから言いたいことは言えるようになりたいと思っています。いまは、すこしでも自分を変えようと取り組んでいるところですね。

今年の目標は、殻を破ってはっちゃけること、どんどん輪の中に踏み込んでいくこと。(社内)合宿や社員旅行、忘年会の余興で、漫才なり何なりやってみたいなとは思っているんです。

そうはいっても、スベったらどうしようという思いはつきまとって離れません。(笑)実際、先月開かれた入社式でもスベリ倒しましたから。これはドカンとくるやろうという予想が、ことごとく裏切られてしまった。(笑)

ともあれ、昔から人を笑わせるのは好きだったんです。会社では「金城=スベリキャラ」という認識がだんだん浸透してきているけど、僕が言ったことで誰かに笑顔になってもらいたいとはいつも思っています。たぶんそのきっかけとなったのは、9年前、23歳の頃に今の奥さんと出会ったことでしょうね」

金城が深い人間不信に陥ったのは、パチプロ時代だった。パチンコに興じる中学、高校時代の友人に金を貸すも、負けたとたん自分の前には二度と姿を現さなくなる。そんなことが何度か続くうち、結局カネだけの関係なんや、人ってすぐハブんねや……という諦観めいた思いが金城のなかで膨らんでいった。のべ数十万の「高い授業料」を払って身についたのは、人の本心はわからないもの、と心のシャッターを閉じて世の中を見る冷めた姿勢だった。
「知り合った当初からすごく馬が合って、一緒にいて落ち着けた彼女と付き合うようになってからは、すこしだけだけど、まわりにも心を開けるようになりました。その後、笑顔になってもらいたいと思う相手が、「彼女」から「いろんな人」に変わってきたんだと思います」

 

刻まれていく“白歴史”

アルバイト期間もふくめると、金城がミニッシュで過ごす日々は5年目を迎えている。雨やどりのつもりで漂着した場所は、いつしか安住できる住処のようになっていた。
「人間関係がいいというだけではなく、刺激があるというか、成長の場を与えてくれることも居心地の良さにつながっています。年度はじめに1年の目標を会社から立てさせられる形ではあるけど、自分で設定した目標に向かって日々の仕事に取り組めるおかげで、成長を実感させてもらえます。そういう場を与えてくれるのもこの職場がはじめて。それまでは何も考えずに目の前の“作業”に終始するだけでしたから」

とはいえ苦い思い出もある。3年前にデリバリー部門のリーダーを引き受けたものの、仕事がまわらなくなったあげく、社長をふくめた緊急会議が開かれるほど会社に損害を与えてしまったのだ。情けなさと申し訳なさで胸をいっぱいにしながら別の社員に尻拭いをしてもらう形でリーダーの座から退いた際、金城は自身の力不足を痛感させられていた。

それから2年。踏ん切りがつかないところがないわけではない。だが、それなりに仕事を回せるようにもなった今ならやれるだろうと、再挑戦への意欲も湧いてきている。「金城は今、助走期間にいるところ。ただ筋肉はついてきているというか、確実に伸びてきている」と語るのは高本だ。

金城は言う。「ミニッシュはいろんな意味で僕を変えてくれた場所なんです。まわりの人たちも僕を変えようとしてくれているし、僕自身も変わっていこうという気持ちで過ごせている。高校を卒業してから10年近くの“黒歴史”があったからよけいに、今はただただ楽しいんです」