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2020.5.31

夢中が人を夢中にする。強いチームと理想のリーダー/サッカー漫画『アオアシ』

ひたむきだけど、がむしゃらじゃない。プロサッカークラブの下部組織であるユースチームを題材とした漫画『アオアシ』の魅力は、そこに集約されると言っても過言ではない。
 
『アオアシ』では、ユースに所属する10代後半の少年たちがサッカーを通じて成長していく。そのページをめくる手が止まらないのは、登場人物の熱狂や高揚がダイレクトに伝わってくるからだろう。読んでいるとアドレナリンが出てきて、体温が1〜2℃上がった感覚になる。
 
サッカーはよくわからない、という人も読むのをあきらめないでほしい。どういうプレーが
繰り広げられているかよくわからない場面が多いにもかかわらず作品を十二分に楽しめるのは、自分(たち)の可能性や理想を信じて、高みを目指し続ける姿勢に、仕事や人生にも通じる普遍性を読み取れるからだと思う。
 
この作品が先駆的なのは、根性や努力ではなく思考や探求が登場人物たちの活路を開いていくところにある。ストーリーはとてもエキサイティングでありながら、感性に頼ってプレーしている主人公が、自分のプレーを言語化、意識化することでパフォーマンスを上げていくというリアリティがおもしろい。
 
考えていることを言葉で伝えられるようになるとパフォーマンスが安定し、まわりと意思を共有しやすくなる。指導者が答えを与えるのではなく、プレイヤー自身に考えさせて、答えを自分でつかませる。一つひとつのプレーの意味を問うことで、プレーの次元を高めていく……。自分の中に眠った才能を花開かせ、生かしきるためには、思考や探求といった頭脳的アプローチは欠かせないのだ。
 
ともに汗を流す時間を重ねて、数え切れないほどの言葉を尽くした先に、言葉を使わずともお互いが意思を共有できて、自然と呼吸が合う。その境地こそ、1人では成立しない団体競技の到達点なのかもしれない。真の「ONE TEAM(ワンチーム)」を目指す『アオアシ』では、サッカーでさえも理想の世界を実現するための手段として描かれている。
 
「船を造りたいのなら、 男どもを森に集めたり、 仕事を割り振って命令したりする必要はない。 はてしなく続く広大な海への憧れを教えよ」という言葉を残したのはサン=テグジュペリだ。
 
遥かな理想を示したリーダーのもと、心の奥底から湧き上がってくる情熱のおもむくままにサッカーに明け暮れる登場人物たちの夢中な姿に、こちらも夢中にさせられる。サッカーの奥深さに心を奪われながら濃密な人生を歩む彼らに、生きる歓びを教わった。