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2019.7.24

「ナイフいらずの人殺し」という言葉をおばあちゃんから教わった話

これは、70代半ばの人が小学生か中学生の頃、家族で食卓を囲んでいるときに、おばあちゃんから聞かされた実話である。本人いわく、後の生き方にも影響するほど胸に沁みる内容だったという。

戦後間もない頃、(自分たちが住んでいる)村で女の子がレイプ被害に遭い、電話で警察に被害を訴えた。電話交換手が発信者と受信者をつないでいた時代のこと。その内容を傍聴していた交換手の子が、家に帰ってから家族についそのことを話してしまった。人の口に戸は立てられぬというが、ほどなくしてその“ホットニュース”が村に広まったことを知り、絶望した被害者の女の子は自殺した。

たとえ身内であれ、秘密にしておかねばならないことを話した交換手にも罪はある。事実、被害者の女の子が自殺した後、その秘密を漏らした交換手が標的になった。こんどは「その子が自殺に追い込んだんや」という噂が広まり、やがて交換手も後を追うように自殺してしまったのだ。

 

事の顛末を話したおばあちゃんは最後に、「いいかい? 人の悪いこととか陰口は言うんじゃないよ。それを『刃物いらずの人殺し』と言うんだよ」と言って話を締めくくったという。

“善良”な市民が寄ってたかって「悪」を叩くのは、SNSが世の中に浸透してから生まれた社会現象のように錯覚していたけれど、誤解だった。無自覚に人を追い詰める集団の暴力性を心に刺さる言葉で表現したおばあちゃんなら、今の時代をどう見るのだろう。