先日、大阪府にある私立・四條畷学園小学校の特色ある美術教育について取材してきました。
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自身の過去を振り返ってみても、学校での図工や美術の授業が役立ったと思った瞬間はない。職人的、あるいはクリエティブな分野の仕事をするのでなければ、図工や美術で学んだことはほとんど役立たない、とも思っていた。だが、結果から言うと、そんな先入観は覆された。四條畷学園小で40年以上受け継がれてきた伝統の美術教育は、今まさに社会が求める「主体性」を軸に据えたものだった。
同校の美術教育の最大の特色は、「することを自分で決める」ところにある。自分ですることを決めて、PDCAサイクルを回していく。くじけそうになっても、あきらめずに最後までやり通すーー。誰の人生にも通ずる普遍的なテーマと向き合う習慣を、子ども時代に身につけられる恩恵はどれほどのものだろう。
この美術教育は、40年前、ひとりの先生の信念からはじまったという。
「自由に選ばせて本人なりのものがでてくるのを待つのは、まことに気の長い話だということです。好きにするというのは、そのくらい気の長く、むずかしいことですが、生きていく上で大きな力になることだと思います。
重要なことは不完全を完全にしようと急ぐことではなく、また、なるべく速くモノになるようにすることでもなく子どもは子どもの世界を、いませいいっぱいに生きることだと考えます。
生きるナマの姿において、欠点だらけであることがむしろ人間的であるとも言えます」(原口好博『自由を子どもに』)
「人生レトルト化」と古舘伊知郎は表現したが、いろんなものが簡単かつすぐに手に入る時代は、気長に待つことが極めてむずかしい時代とも言える。
この先二度と、誰かを待つ切なさを歌った名曲が生まれ得ない気がして、とても切ない。
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